「コミュニケーションコスト」という言葉がある。コミュニケーションコストとは他者との意思疎通にかかる時間や手間などのことを指す。
一般的に「コミュニケーションコストが高い」状態というのは、他者とうまく意思疎通ができていない、またはできていたとしても時間や手間が必要以上にかかっているということだ。一般的にビジネスにおいては、「コミュニケーションコストが高い人」とはあまり接したがらないし、結果として自分の仕事の範囲が狭くなってしまうこともある。(コミュニケーション能力と業務遂行能力というのは別ものだから厄介なのだ)
では、あなたが「あの人、コミュニケーションコスト高いよね」と言われないためにはどうすればいいのだろうか。
コンテンツ
状況をいちいち聞かないといけない人ほど面倒くさいものはない
まずはコミュニケーションコストが高い例を出そう。
上司A:「Bさん、今週の金曜日の12時までにこの資料をまとめておいてくれる?14時から会議で使うから。」
部下B:「分かりました。金曜日12時ですね」
上司A:「うん、やり方は前回お願いした時と同じだから大丈夫だよね?」
部下B:「はい、前回と同じなら大丈夫です」
~金曜日 13時~
上司A:「Bさん、この間お願いした資料をまとめる件、どうなってる?」
部下B:「あ、こちら間もなくお送りします」
いかがだろうか。このコミュニケーションにおいて、コストが高いのは設定した納期が過ぎているにもかかわらず、上司から部下に進捗を確認しているということだ。
これがいかに面倒か想像できるだろうか。その理由は2つある。
- 納期が遅れている/間に合っていないことに対しての報告(ホウレンソウ)がない
そもそも約束した納期に間に合っていない、または間に合わないと分かった時点で報告をしなければならないはずだ(これは上司と部下の関係だけに限定されない)。そしてその際、「遅れる理由といつなら出来上がるのか」を合わせて相手に伝えなくてはならない。
上司の立場なら「間もなくお送りします」という返事では、それが何時なのか、また本人がそもそも遅れていることを理解しているのかすら分からないため、答えになっているようでなっていない。これではまったく状況を把握できない。部下は「だから?」と言われてしまうのがオチだろう。
- 遅れていることへの謝罪
もう一つは、単純に遅れていることに対しての謝罪だ。上司は12時までは黙って待っていた。しかし一向に部下から資料が上がってこない。最初に上司は14時から使うと言っている。部下の返事だと何時になるか分からないし、14時に間に合わなければ上司は会議でその資料を使うことができない。
ここまで想像できれば、すでにそういう可能性を生んでしまっていることについての謝罪はあったほうがいいだろう。
※「12時~14時であれば2時間の猶予があるからいいじゃないか」という意見もありそうだが、実はそうではない。12時~14時は、上司側の資料のチェック時間かもしれない。またその間に不明点や疑問点が出てきたら部下に質問が行くはずだ。その回答などのやり取りの時間に充てることも考えられる。
こういう状況は、上司にとってはシンプルにストレスでしかない。遅れることが悪いというのではなく(もちろん悪いのだが)、それ以前にきちんとホウレンソウしてくれればいいだけの話だ。部下からのホウレンソウは上司の手間を省く。
自分からホウレンソウしてくれる人は、誰にとっても有難い存在なのだ。
遅れることが分かれば具体的な対策をとることができるのに、それもできない状態ではどうしていいか分からない。
「部下の目的」は「上司の手段」
ちなみに、上司はこの部下Bだけを見ているわけではない。部下は全部で10人だ。もし10人のうち、3人の部下が上記のようなやり取りをするなら、そのコミュニケーションコストはどのくらいかかるだろうか想像すれば分かるだろう。そのストレスは計り知れない。
しかし残念ながら部下は異なる感想を持っていることもある。
・勝手に「詰められている」と思う
上司から質問された部下は「ちょっと遅れちゃったけど、もうすぐ送るんだし待ってくれたっていいのに」と思うかもしれない。
それは上司と部下では見えているものが違うからだ。
- 部下にとってのゴールは、金曜日の12時までに資料を上司に渡すこと
- 上司にとってのゴールは、金曜日の14時の会議で資料を使って円滑に会議を進めること
部下にとっての目的は、上司にとっての手段しかないのだ。
仕事はその目的が複雑に絡み合っているからこそ、コミュニケーションが欠かせないのである。しかしこの部下B はそれを想像できない/しないとしたら、「あの上司が質問攻めにしてくる」「詰められている」と感じるかもしれない。
※部下からは上司の目的が見えていないからだと言われそうだが、ただ今回の上司はその目的をはっきりと話している。
ズレた回答をする人とのコミュニケーションはストレスが多い
次の例を見てみよう。
先輩 A:「B君さ、C社さんの見積書をこの間作ったって言ってたよね?何度か作り直しているんだっけ?」
後輩 B:「はい、そうですね。3回作り直しました。」
先輩 A:「ああ、そうなんだ。それは大変だったね。ちなみに何で3回も作り直したの?お客さんが条件を変えてきたってこと?」
後輩 B:「とにかく早く出してくれと言われまして慌てて作って送ったところです」
いかがだろうか。後輩 B さんの最後の答えは、先輩 A さんの質問には答えていない。どういう事情があって見積書を作り直したのかの理由を知りたいのに「急いで出しました」という状況を説明している。
これは典型的な「理由を聞いているのに状況を話す人」であり、この場合、先輩後輩の関係性が悪ければ「言いたくない理由があるのかも」や「実は、見積書は1回しか作ってなかったのでは」と勘繰りたくなることもあるだろう。
この場合、先輩 A さんはもう一度同じ質問をしなければならない。知りたいことを答えてくれなければ、アドバイスはできない。
ただのメッセンジャーの人とのコミュニケーションは無駄になる
最後にもうひとつ。
メッセンジャーの人もコミュニケーションコストが高くなる。
例えば 3社間(A ⇔ B ⇔ C)の調整業務などの場合、間に立つ B社の担当者がメッセンジャーの場合はやり取りが倍増する。
A社に言われたことをそのまま C社に伝え、また C 社に言われたことを A 社にただ伝える。それはただの「転送」に他ならないし、B 社の存在意義は無いに等しい。
B 社の担当者が「判断をしない、判断できない」のどちらかで丸投げする/転送するだけなら、A社とC社から見れば、直接やりとりした方が早いし確実だろうと思うはずだ。
「考える力(判断軸や相手の立場)」がなければただのメッセンジャーであり、コミュニケーションが煩雑になるだけだ。
まとめ
このように、コミュニケーションコストの高い人というのは、相手目線でのコミュニケーションをしていない。だから相互理解をするためにいちいち聞かざるを得ない。
コミュニケーションコストが高いということは、聞かれていることが分からないか、聞いていないかのどちらかだろう。どちらの場合でも、相手と何度もやり取りをしなければならないのは明白だ。
コミュニケーションコストの低い人と比較すると一目瞭然だろう。
コミュニケーションコストが高い人 | コミュニケーションコストが低い人 | |
---|---|---|
ホウレンソウ | しない/できない | 頻繁に行う |
情報共有 | 少ない。 ホウレンソウしないのでトラブルが起きてから色々と発覚する | 「自分がいなくても業務が回るように」という意識が強いので頻繁に共有する |
自分の考え/意見 | 持っているが「顧客視点」ではない。 | 持っている。「顧客視点」で全体を俯瞰している |
読解力 | 低い。何を聞かれているかを文脈や行間から判断できない。 | 高い。相手が意図することを理解することができる |
スキル | 高い人と低い人のふり幅が大きい。 コミュニケーションが取りにくくても業務はスムーズに回るケースもあるし、逆のケースもある。 | 周囲と相談しながら進めていく。チームワーク重視。 |
要するに、相手の立場に立って想像することができないから、自分の理由(または状況)を並べ立てるにとどまっている。
同じ社内の人間同士でも感じるのだから、クライアントやパートナーとそういうやり取りをするのは致命的だ。コミュニケーションコストを下げてスムーズなコミュニケーションをとるのはさほど難しいことではない。
相手のことをきちんと考えて伝えるという「おもてなしの心」を持てるかどうかだろう。
トライベクトル株式会社 代表取締役。会社経営 19年目。翻訳・ローカライズ業界24年。翻訳・ローカライズ実績年間10,000件以上。
現在は BtoB (特に IT 企業)専門のマーケティングサポート(動画や導入事例などのコンテンツ制作全般)と言語サービス(翻訳、オンライン通訳、英会話、e-learning 講座等)を行っています。