コロナウィルス(COVID-19)が世界中で猛威を振るっています。各国における感染拡大は日に日に増大していますが、そんな中で私たちのビジネス、そして働き方というものも大きく変容を遂げようとしています。
その中でも、特にテレワーク/リモートワークへとシフトしたときのコミュニケーションの取り方は、これまでよりもさらに高度なものになっています。
今回は翻訳会社(弊社)のケースも例にとりつつ改めて考えてみましょう。
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テレワークの定義
「在宅勤務」という言葉よりも一気に広まった感がある「テレワーク」ですが、そもそもどういう意味なのでしょうか。
日本テレワーク協会によると「テレワーク」は造語だそうです。
テレワークとは、情報通信技術(ICT = Information and Communication Technology)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことです。
引用:日本テレワーク協会(https://japan-telework.or.jp/)
たしかに、現在の働き方は多岐にわたっていますし、そもそも正社員ではなくともフリーランス、個人事業主もますます活躍している時代でもあります。昔からの翻訳者や通訳者という職業はそれこそ、その走りかもしれません。
翻訳者という職業に関して言えば、もともと自宅で翻訳作業することが圧倒的に多いのはイメージしやすいかもしれません。また顧客(主に翻訳会社)とのやり取りなども、これまではメールや電話でのコンタクトが多いわけです。これは現在でも変わっていませんが、さらにこれに加え、ZOOM などのオンライン会議ツールや後述のチャットツールなどによってさらに自由度が高く、場所に縛られない働き方ができるようになっています。
※「翻訳者」という職業については、弊社が撮影協力した厚生労働省 職業情報提供サイト(日本版 O-NET)にも掲載されております。
「テレワーク東京ルール」宣言
翻訳会社は他業界と比較するとテレワークの導入は容易かもしれません。
弊社の場合には、「テレワーク東京ルール」実践企業として登録してあり、「週3日・社員の6割以上のテレワークを実施します」という宣言を行っています。
https://www.telework-rule.metro.tokyo.lg.jp/
弊社からすると「すでに15年以上前から行っていたことであり、コロナウィルスによってそうせざるを得なかったというよりも、ようやくオンラインでの環境や価値観が整ってきた」というのが正直なところです。
いずれにしても、テレワークは造語ではありながら、いま確実に日本社会に根付いている働き方だと言えるでしょう。
テレワークで使い倒せる各種コミュニケーションサービス
テレワークが始まると移動時間が無くなったり、無駄な残業も減る、無駄な会議も減るという点は間違いないでしょう。しかし、同じオフィスにいたときのように、隣の席に軽く声をかけるのと同じ感覚ではいられないのも事実です。
そこで、そんな違和感をできるだけ払拭できるのが、以下に挙げる様々なツールやサービスです。弊社でもクライアントとの打ち合わせや、社内コミュニケーションでこれらのツールを積極的に使用し、スムーズなプロジェクトの推進を行っています。
これらは、もしまだの場合には積極的に取り入れていきましょう。
Chatwork:https://go.chatwork.com/ja/
Slack:https://slack.com/intl/ja-jp/
Skype:https://www.skype.com/ja/
LINE:https://line.me/ja/
ZOOM:https://zoom.us/
WebEx:https://www.webex.com/ja/index.html
Microsoft Teams:https://products.office.com/ja-jp/microsoft-teams/group-chat-software
弊社のお客さまの中には、「メールと電話だけだとさすがに厳しい」という声も聞こえてきますがこの手のツールを導入することによってかなりコミュニケーションは改善されるでしょう。
企業訪問自体も感染拡大防止のために制限されているというのが現状のため、商談や打ち合わせなども ZOOM などを筆頭に頻繁に行われるようになってきましたので、この流れはますます強くなると思います。
働き方改革と 5G の登場
もうひとつ、テレワークと並び、在宅勤務を含めた自由な働き方を後押しするのが、2019年にはじまった「働き方改革法」です。
「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148322_00001.html
さらに、この状況に加えテクノロジーが後押しします。5G の登場です。
5Gと4Gで何が変わる?何ができる?
つまりテレワークをしやすい環境が今後続々と始まっていくということです。
余談ですが、転職や就職活動でも「テレワーク」「在宅勤務」といったキーワードが人気で、そういう企業への応募意欲は高いそうです。
テレワークのデメリット
テレワークが IT業界特有のものから社会全体に浸透する背景は理解できましたが、とはいえ、まだまだ慣れていないシーンも多いでしょう。ここでは考えられるデメリットもご紹介します。メリットとデメリットを合わせて検討することで対策しやすくなります。
代表的なデメリットは以下になります。
時間管理が難しい(自己管理能力の低い人は相当大変)
これまでは通勤時間を計算して始業までに出社をしていた生活から急に、始業までにテレワークの準備をしておけばいいということになり、通勤時間がゼロになります。
それによって満員電車などのストレスは軽減されると考えられますが、一方で時間管理をきちんとしないと強制力が働きにくくなるため、ダラダラと仕事をしてしまう傾向もあります。
仕事のスイッチの ON/OFF の切り替えも難しい側面があります。またはテレビを見ながら仕事をするとか、家族がいるため集中できる環境の確保が難しいといった面です。
逆に時間管理をきっちりできる人には有効な手段です。
他者との接触頻度の低下によるメンタル面の不調(ネガティブな人は特に)
こちらは最近多くの声を聴くようになりましたが、やはりずっと在宅でひとりで仕事をするということで、元々少しネガティブに物事を捉えてしまいがちな人は、これまでのように社内やクライアントとのコミュニケーションが十分に取れないため、余計な心配をしてしまったり、あらぬ方向に考えてしまったりということが発生します。
特に気持ちが切り替えにくい人や、気持ちが下がっているときなどは、どうしても悪い方向に考えてしまうのが人間ですので、このあたりはチームや部署として、上司としてどうフォローしていくかという課題にも直結します。
人間は社会的な動物で、やはり他者とのコミュニケーション量が減ってしまうと、メンタルへの影響はあると思われます。(一方で、ハラスメントなどのリスクは減少しますので良い面もあります)
完全な成果主義
こちらも最近特に言われていますが、これまではオフィスでのコミュニケーションだけで仕事をしていたような、いわゆる社内での交渉に長けていたり、根回しが上手だったり、派閥争いといった関係性重視の仕事をしてきていた場合は、基本的に厳しくなるでしょう。
在宅ではその方法が通用しないですから、純粋に作業の成果や仕事の成果で評価されることになります。(本来はこうあるべきなので問題ないと思います)
そういう意味で、テレワークやリモートワークは、「完全なる実力主義の世界」とも言えるでしょう。無駄な会議や打ち合わせなどは発生しにくいため、「今日はどんな仕事をしたのか」「今日の成果は何か」をきちんと示せないと、周囲からの信頼も失ってしまいます。
何となく惰性で仕事をしてきていた人にはかなり辛い環境になるでしょう。
(見えない)コミュニケーションコストの増大
また、隣の席同士なら一言、二言で済んでいた話が、チャットやメールになると急にやり取りが増えます。
例えば、YES か NO かだけを問うケースで考えてみましょう。
■リアルな場所で直接会って話をする場合
部下:「・・・ということで、こちらの案件は進めてよろしいでしょうか?」
上司:「うーん、いいんだけど、この前問い合わせのあった別件はどうなったんだ?」
部下:「(別件は関係ないよな)・・・ああ、あちらはまだパートナーさんと交渉中でして」
上司:「あれはさ、早くしないとダメって言ったよね?」
部下:「はい、それはそうなんですが、こちらの件を先に進めるというのがお客様の要望で」
上司:「うん、だからそれは分かるんだけど、ウチにとったら別件の方が重要なんだから」
部下:「ええ、それは分かってますが、まずはこちらを進めてから検討するということで・・」
上司:「いやだから、それはやっていいんだよ、でもさ、その前に別件のほうも合わせて考えてほしいんだよね」
部下:「分かりました、、、ではまずは別件を聞いてみます」
これは同じ場所にいると、(確かにイライラはしますが)まだ我慢できなくはない回答です。しかし、これはチャットやメールの場合はどうでしょう。
■チャットやメールの場合
部下:「・・・ということで、こちらの案件は進めてよろしいですか?」
上司:「いいけど、この間問い合わせのあった別件はどうなりましたか?」
部下:「(あれ?これって OK ってことかな)・・・別件はまだ交渉しています」
上司:「まだですか。こちらを先に進めてください」
部下:「(それは分かってるけど)・・はい、かしこまりました。しかし、こちらの件を先に進めてほしいとお客様はおっしゃっています」
上司:「(いや、だからさ)それはそうですが、ウチにとったら別件の方が重要なのはわかりますよね?」
部下:「(はあ?当たり前だろ)もちろん理解しています。しかしこちらを進めてから検討するとおっしゃっていますが」
上司:「(いやいや、そうじゃなくて)理解しているなら、別件を含めて考えてもらうように伝えてください。」
部下:「(え、結局 NO ってこと?)はい、分かりました、、、ではまずは別件を聞いてみます」
これらは極端な例ではありますが、なぜか文章になるとそれぞれ丁寧な言葉遣いになります。そしてそれがかえって冷たい印象を与えます。また、顔が見えない分、断定してしまうことも多くなるでしょう。
これらは、少しずつ積み重なり、見えないコストが増大していくことになります。
非言語コミュニケーション(Non Verbal Communication)が通じない世界
コミュニケーションは言語情報と非言語情報に分けられますが、上記の例のように「言語情報」が主を占めてしまうと、これまでコミュニケーション内で受け止めてきた「非言語情報」がゼロになるため、本当に相手が何を言いたいのか分からなかったり、間違えてしまうこともあります。また文章だけだと、「どういうトーンで書いているのか分からない」ことも多くなるため、「怒っているのかも」と推測したり「大して重要ではない」と軽く受け止めたりという誤解も招きやすくなります。
言葉は、同じことを伝えるのにも様々な表現があります。非言語情報(身振り手振りのようなもの)が遮断された状態だと、丁寧な言葉が逆に突き放す印象を与えたりすることもあります。
このように非言語情報は、実はコミュニケーション上では大変有効な情報なのですが、これからの時代はそれらを受け取れないという前提で仕事をすることを考えなくてはなりません。
テキストによるコミュニケーションがますます重要に
非言語情報が使えないということは、文章力がますます重要になるというのは明白です。
以前にこんな記事も書いています。
読み書き、つまり視覚情報が重要になるとき、いったいどういう点に注意すればいいのでしょうか。
テキストコミュニケーションにおける10個の注意点
テキストがメインになる世界では、これらのポイントをしっかり押さえておきましょう。ひとつひとつは当たり前のことなのですが、非常に重要です。
1. 使う言葉の定義をする
これはコミュニケーションにおける「基本」です。これまでに何度もお伝えしていることですが、これがないと、リアルの場でのコミュニケーションも上手く行きません。
例えば、弊社の掲げる「良い品質の翻訳」という言葉の定義は、「お客様の望むものを作ること」となっていますが、これがもし決まっていなければ「自分たちが良いと思った翻訳こそが良い品質」というように勝手な解釈が含まれてしまい、お客様の希望する翻訳にならない可能性もあります。乱暴な言い方をすれば、それはどんなに訳文として素晴らしかったとしても、翻訳サービスを提供する弊社では定義とは異なるため「良い翻訳」とは呼べないのです。
なぜならそれはお客様を無視した訳文であり、しかも毎回それが満たされる可能性も少ないため、一定の品質をお届けすることができません。
お客様との打ち合わせの中で「良い品質、良いものを作りたい」という発言があったとき(大抵誰もが良いものを作りたいと思っている)、その言葉の定義が確定していれば問題ありませんが、そうでない場合には、「作り手の作りたい品質」と解釈される恐れがあります。その場合、プロセスとしてのコミュニケーション、また成果物そのものがおかしくなります。
2. 1つのテーマの中に複数のテーマを入れない(誤解が生じる)
「1つのテーマの中で、別のテーマを論じない」ということです。
リアルな場であればそれも流れをつかめるケースも多いのですが、基本的にテキストメインになると背景情報やノンバーバルの情報量が減少するため、その中で別の話をしてしまうと読み手はついてこれない可能性があります。
プライベートならまだしも、ビジネス上では1つのテーマが話し終わってから次に移る方が結果的にスムーズになるでしょう。
3. YES/NO の質問には最初に結論を述べる(結論、意見 → 理由、意図の順番)
上記例でも説明した通り、まずは「結論を述べる」ということです。これはリアルな場でも同じことですが、結論が出ない話し合いや打ち合わせは意味がありません。ただ参加者が何となく不安だからということで開催されるケースがほとんどです。その場合、何となくの安心感だけを手に入れて業務への改善が見られません。
「結論を先、次に理由」を述べていくというのは、テキストベースのコミュニケーションでも基本中の基本です。
4. 日付は、曜日だけで答えない
これは無意識にやってしまいがちなのですが、「来週の木曜日までに納品してください」といったケースです。
「木曜日」だけだと、勘違いする可能性を作ってしまいます。もちろんそうならないようにお互いに注意すべきなのです。
誤解を生まないようにするためには、初めから「4月9日木曜日に納品してください」とします。端折らずにきちんと伝えましょう。
5. 言葉を端折らない(主語、述語、目的語がないと指示や話が曖昧になる)
会話ではよくあると思いますが、言葉を端折ることで伝わらなくなります。
例えばローカライズプロジェクトにおいて「〇〇社の用語集を構築する」ということが決まった場合、「いつまでに、だれが、どういう形式で、どういうツールを使って、どの原稿から、どのくらいの数の用語集を構築するのか」をはっきり書いておくということです。
これが結論として書いていないと結局誰もやりません。指示がハッキリしなければ動けないですし、曖昧な個所は質問して確認しなければ進められません。
「うまく翻訳してください」や「ざっくりデザインしておいて」というような指示ではいつまでたっても望む品質の成果物は手に入れることができません。
6. 箇条書きを使って順番に話をする
これも簡単なことなのですが、意外とできない(やっていない)ことです。文章をダラダラと書くくらいなら、箇条書きにしてシンプルに伝えた方がよいでしょう。
「分かりやすい文章」というのは論理性があります。そしてその中には「文章構造はシンプルにする」ということも含まれています。
二重否定のような文章は、一見読むだけでは分からないことも多いですし、ストレートに書くのが一番です。
二重否定文:そのプロジェクトは成功しないとも限らない。
修正後:そのプロジェクトは成功するかもしれない。
7. 全体として 5W1H を意識する
前項の言葉を端折らないと点にも共通しますが、5W1Hを意識しないとどうしても自分の視点だけになり、話が分からなくなることがあります。「いつまでに、誰が、何をするのか」をはっきり書くことが大切です。
書き言葉でも話し言葉でもどちらでも大切なポイントです。
8. 多少冗長になっても、明確に書いておく
言葉を端折れば端折るほど、誤解は生まれやすくなります。たしかに会話の中では(非言語情報が多いため)端折ってしまっても伝わることも多いのですが、テキストだけでやり取りしようとするときには、きちんと書いておきましょう。
それによって余計な質問もなくなりますし、結果的にやり取りが一度で済みます。
9. テキストによるコミュニケーションは予想以上にコストと時間がかかる
心構えとして「テキストによるコミュニケーションは、(意外と見えない)コストがかかるということも念頭に置いておきましょう。
これまでは、同じオフィス内にいるため、「隣にいるから話しかけたらすぐに終わる」「電話すればすぐに済む」という状況も多かったはずです。またそのやり方に慣れている人も多いとは思いますが、チャットツールやメールではそうはいきません。その分、予測しながら書くようにしなければなりません。上手に文章を書かないと意図が伝わりにくくなります。
10. ポジティブに書くのかネガティブに書くのか
これは書き手の思想に影響を受けますが、例えば何らかの報告などのケースでは、どうしても主観が入ります。そのため、ポジティブに書くのか、ネガティブに書くのかによって読み手の持つ印象は変わってしまいます。
よく「事実」と「意見」を分けて書くことを推奨されますが、チャット等ではそれらをテンプレ化してもいいかもしれません。
読み手の判断が変われば打ち手も変わってしまうので、特に注意が必要です。
テキストに振り回されないために
ここまでテキストによるコミュニケーションの注意点を書きましたが、これらを注意するだけでなくZOOM などを合わせて活用することもお薦めします。映像が入ると、非言語情報を発信/受信できるようになるため、リアルな場でのコミュニケーションに限りなく近くなります。
弊社でもオンラインでの商談では、ZOOM や Skype 等を利用しています。
まとめ
翻訳会社の業務はまさにこの文章(テキスト)を商品としているため、弊社ではテレワークの有無にかかわらず、論理性の高い訳文を作るということを常に意識してきました。また職業的にも、テレワークで進められる部分が大きいのも事実です。新型コロナウィルスによってテレワークが脚光を浴びましたが、これからの時代、テキストによるコミュニケーションは「新しいルール」になるでしょう。
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