BtoB ビジネスでは、プロダクトや商材の特性もあり、手に取れるもの(有形商材)ではなく無形商材(サービスなど)を売買している。
顧客の立場からすれば、一見(というか見えないのだが)「よく分からないもの」があったりするわけで、営業をはじめとした販売に関わる職種の人たちは「よく分からないもの」を「よくわかる」ように説明しなければならない。
それには綿密なコミュニケーションが必要となる。今回はその伝え方にも直結するであろう「絵を描く」ということについて解説する。
コンテンツ
自分のタイプを知る
厳密にはこれはビジネスに限らないのだが、相手の話を聞くシーンを想像してみてほしい。あなたはどちらのタイプだろうか。
- 相手の話を聞きながら頭の中で「絵」を描く人(イメージ型)
- 相手の話を聞きながら頭の中で「文章」を読む人(論理型)
これはどちらが優れているとか、劣っているという話ではない。相手の話を脳内でどのように変換するか、その違いだけだ。
当社調べで恐縮だが、他者とのコミュニケーションにおいてはイメージ型の人は話の矛盾点に気づきやすい傾向にあるようだ。
イメージで理解するから矛盾に気づく
イメージ型の人間は、相手の話を聞きながら頭の中で絵を描き始める。例を出そう。
クライアント 担当者 A(以下、A):「今回の案件ですが、内容としてはセキュリティ分野のコンテンツの翻訳になります」
営業担当者 B(以下、B):「かしこまりました。ちなみに言語は何語から何語への翻訳でしょうか」
A:「はい、英語から日本語になります。ただ、一部のデータが手に入らないのですがそれでも翻訳できるでしょうか」
B:「そうですね、翻訳作業は可能です」
A:「あとデザインもお願いしたいと思います。こちらはデータをお渡しできるのでそれを使ってほしいのですが」
B:「え?先ほどデータはお持ちでないとおっしゃっていましたよね?」
A:「ああ、そうでした。別のコンテンツのデータはあるんです」
B:「なるほど、つまり今回の翻訳対象のデータはないけれど、別のコンテンツのデータがあるので、デザインに関してはそれを流用してほしい、という意味ですね?」
A:「はい、その通りです。それからできれば今月中には納品してほしいのですが可能でしょうか」
B:「まだ内容を見ていないので何とも申し上げられないのですが、どのくらいの分量があるかお分かりですか?」
A:「いえ、それは御社で確認していただきたいのですが、今月中には何とかなりますかね?」
B:「ええ、ですので納期についてお答えするために、内容を見ないといけませんので少しお時間いただけますでしょうか」
いかがだろうか。よくあるパターンかもしれない。もうひとつ似た例を挙げる。
B:「今回は、納期、ご予算、品質についてはどれが優先度が高いでしょうか?」
A:「そうですね、今回は予算になります」
B:「では、予算を抑えるためにどんな作業プロセスが最適なのかご提案しますね」
A:「はい、ああ、ただし今回の翻訳については弊社の顧客向けに出すものなので、品質はきちんと担保していただかないと困るのでよろしくお願いします」
B:「担保ですか、そうしますとやはり安心できる翻訳者で作業しないといけないので、もしかしたらご予算を超えてしまう可能性もありますが、それでも大丈夫でしょうか」
A:「いえ、予算は決まってしまっているのでそこは難しいですね」
B:「ということは品質よりも予算ということですね(いくつかパターンを作って提案するしかないな・・・)」
担当者は予算が最優先という話をしているのですが「やはり品質が大切」と言っている。恐らく本人は「予算が最優先」といった事は抜けてしまっている。営業担当者は、いくつかのパターン(納期優先の場合、品質優先の場合)を想定して見積もりを作るしかない。よくある話だが、これらは頭の中で以下のイメージを描いているとすぐに矛盾点に気づけるはずだ。
また、「頭の中で絵が描けない」とき(=輪郭がぼんやりしているとき)は、その内容を完全に理解しているとは言えない。
そのため、ぼんやりしている箇所や不完全な個所をクリアにするために相手に質問をすることになる。
話をするときも、頭の中のイメージを説明する
一方、自分自身が相手に話をするときにも「絵を描いて」から話を始めるべきだ。これは、5W1H と一緒に使うとより効果的だ。
頭の中にある「絵」を 5W1H に沿って話すことで概要から詳細へ、洩れなくダブりなく伝えることができるので相手の理解度もアップする。
イメージを作るためのフレームワーク
とはいえ、「絵を描く、イメージを作る」ことに慣れていない場合にはどうすればいいだろうか。その場合には世の中にある「フレームワーク」を活用しよう。
フレームワークは物事の考え方の枠組みを提供してくれるため、それらに当てはめて考えることで効果が出やすい。
ビジネスフレームワーク図鑑 すぐ使える問題解決・アイデア発想ツール70 | |
思考法図鑑 ひらめきを生む問題解決・アイデア発想のアプローチ60 |
すべてのフレームワークを使用する必要もないし、現実的には不可能だろう。せいぜい 2~3個程度で十分であり、それらを頻繁に使うことで「絵を描く」ことができるようになるのでぜひチャレンジしてみてほしい。
基礎は読書(活字)から培われる想像力
またフレームワークを知らなくてもナチュラルボーン的に「絵を描く」ことができる人もいる。彼らの共通点は幼少期からの「読書」だ。
例えば、このような一文があるとする。
「ある晴れた日、ここから見えるのは大きな山々。雲は高く、行き交う人もまばらだが、この景色を1年に一度、じっと見るために田舎に帰ってきたと言っても過言ではない」
この文章を読んであなたの頭の中にはどんな情景が浮かんだだろうか。恐らくこれらのイメージは千差万別のはずだ。
「晴れた日」は晴天だが太陽の位置はどこなのか、また太陽の明るさはどのくらいなのか、「雲が高い」というのはどのくらいの高さなのか、またどんな形の雲なのか、山の向こうにかかっているのか、「田舎」というのは田んぼが手前にあるのか、それとも市街地なのかなどあらゆる部分で必要になるのは読書体験を通じての「想像力」だ。
この一文を読みながら、あなたは意味を理解し(読解)、それを頭の中のキャンパスに描いていく(想像)行為を瞬時に行なっているのだ。
読書を楽しむことで想像力が掻き立てられ、頭の中に絵を描き始める。それが相手の話の理解に役立つのは言うまでもない。
ビジネスで絵を描いてコミュニケーション力の向上に
これまで述べてきたように、相手の話を聞きながら頭の中に絵を描く。そしてその絵の解像度を上げるために質問をする。そうすればビジネスコミュニケーション力は格段に向上するだろう。
相手の頭の中で描く「絵」とあなたの描く「絵」がイコールに近づけば近づくほど、仕事の精度は高くなり、相手の望む成果を出しやすくなるし、ビジネスモデルを考案したり、自分が目指すゴールがさらにクリアになることも間違いないだろう。
トライベクトル株式会社 代表取締役。会社経営 19年目。翻訳・ローカライズ業界24年。翻訳・ローカライズ実績年間10,000件以上。
現在は BtoB (特に IT 企業)専門のマーケティングサポート(動画や導入事例などのコンテンツ制作全般)と言語サービス(翻訳、オンライン通訳、英会話、e-learning 講座等)を行っています。