他者とのコミュニケーション、特にビジネスにおいては「言った言わない」という低レベルの話をしている時点で仕事はできないというレッテルを貼られてしまいます。
当然ながらそういったことが起きないように、議事録があったり、Slack やチャットワーク、メールなどの様々なツールがあるわけです。
これは社内外問わず同じことです。
本来、コミュニケーションにおいて抑えるポイントが分かっていれば、このレベルの話にはならないはずですが、誰でも一度は経験があるのはなぜでしょうか。日常的に起きているのは何故なのでしょうか。
相手との相性が悪いから?ウマが合わないから?
そうではありません。相性が悪いなら悪いなりの、会わないなら合わないなりのコミュニケーションの手段はあるはずです。
今回は他者とのコミュニケーションの基本となる「5W1H」について解説します。
「5W1H」とは何か
5W1H という言葉は学校の英語の授業などで習うと思いますが、ビジネスコミュニケーションでは、どれもが非常に重要です。ひとつずつ解説します。
5W は、W から始まる英単語、「なぜ(Why)、いつ(When)、どこで(Where)、だれが(Who)、なにを(What)」の 5つの W を取っています。
1H は、「どのように(How)」です。
※なぜ誰でも知っているような「5W1H」をわざわざ説明するのかと言えば、言葉の定義の統一を図るためです。相手(この場合は読み手)が勝手な解釈をしないために、それぞれ定義しておくことで、これ以降の説明の理解度を深める働きを持っています。
この辺りは「自分と他者が違う」という前提を持っていなければできないことですが、以下の記事も参考にしてみてください。
このように、5つの W と 1つの H を「5W1H」と呼ぶわけですが、多くの方がご存知でしょう。しかし、これをきちんと使いこなせているでしょうか。
特に日本語は、主語が無かったり、動詞が最後に来るので結論を最後まで聞いていないといけないわけですが、そこがはぐらかされたり、言わなかったりということは多くあります。
なお、「ツーカーの仲」「阿吽の呼吸」で理解するには、相手を深く知らないといけないため、それまではしっかりとしたコミュニケーションをとる必要があります。
ビジネスコミュニケーションの「5W1H」
ビジネスでは、自分に関わる登場人物が多くなります。自分が顧客との窓口(接客や営業)であれば、相対するお客様、さらに自分の上司、上司の上司、他部署の人たち、さらにお客様が企業ならお客様の上司などなど、どんどん増えていきます。
しかも「阿吽の呼吸」仕事ができる仲間や同僚、上司、パートナー、クライアントとなるとかなり厳しいことが分かるでしょう。
登場人物が多いこと、それぞれが持つバックグラウンドが異なることなど、指数関数的に状況が変わっていきます。
このようにある種、伝言ゲームになりがちな仕事をしなければならないとき、「5W1H」が機能しなければどうなってしまうでしょうか。
以下は「5W1H」がはっきりせず起きたトラブル例です。
営業:「部長、昨日私あてに連絡があったみたいなんですけど、先日注文のあったお客さんが来週までに A 商品をあと500個追加したいということでした。」
(直属の)部長:「そうか、それは良かったな。ただ恐らく、ウチの部に A の在庫はそこまでないだろうから、在庫は管理部に聞いてみてくれ」
営業:「分かりました。確認します」
営業:「すみません、A 商品の追加の注文がありまして、500個ほどなんですが、それってそちらにありますか?」
管理部社員「A 商品ですか?ちょっと調べてみますね」
管理部社員「ああ、先週にちょうど500個注文してくださったお客様がいらっしゃって、そちらにすべて納品の手配をかけてしまいました」
営業:「ああそうだったんですか・・・それだと 500個はないですね」
管理部社員:「はい、今はありませんね。これからの生産予定を見ますと・・・えーと・・ああ、これだ、完成するのは来月ですね」
営業:「来月ですか・・・ちょっとそれだと遅くて・・・何とかなりませんか?」
管理部社員:「そう言われても無いものは出せないですしねえ・・・そうしたら、ほかの支社にあるかもしれませんが、私では分かりかねるので、部長に聞いてもらえますか?」
営業:「分かりました。お手数かけました」
営業:「部長、管理部に聞いたんですが、500個分の在庫は無いそうです」
(直属の)部長:「そうか、で、どうするつもりなんだ?」
営業:「えっ?いや、それは部長に聞いてみてくれと言われまして・・・」
(直属の)部長:「はあ?オレが分かるわけないだろう。オレは在庫管理してないぞ」
営業:「そうですよね。。。。」
これは極端な例ですが、これは Who(誰が)が曖昧なケースです。「部長」という役職名だけで会話が進んでいます。もし「○○部長」や「管理部の部長」「私の上司」などがあれば、このような勘違いはしません。
営業:「すいません、すっかり勘違いしちゃって。管理部の部長さんですよね」
管理部社員:「え?ええ・・・はい(そりゃそうだろ)」
管理部の社員も「納期はいつですか?」と聞けばよかったのですが、完成品が出来上がる時期だけを伝えて、あとは知らん振りです。
営業:「部長すいません、すでにご存じかもしれませんが、私の担当するお客様で、A商品の追加注文をいただいておりまして、在庫を確認していただいたのですが、ここにはない為、ほかの支社にあるかどうかを確認させていただきたいのですが・・・」
管理部部長:「ああ。話は聞いたよ。支社への連絡は部下にさせるが、いつまでに必要なんだ?」
営業:「はい、来週です」
管理部部長:「来週?!私は来週とは部下から聞いてないぞ」
営業:「し、失礼しました。私が伝え忘れていました。申し訳ありません」
管理部部長:「うーん、とにかく来週だったら、今週中にはどうにかして発送しないといけないじゃないか。部下からは在庫が支社にあるかどうか確認したいという事しか聞いてないんだ。そんなに急ぎなら、もっと早く言ってくれないと困るよ」
営業:「も、申し訳ありません。。。よ、よろしくお願いします」
これは、W のうち、When(いつまでに)を伝えていないために起きるケースです。直属の部長には報告してあったのですが、それで自分は報告したつもりになっており、管理部に相談するときに伝えていなかった(=忘れた、または伝える意志がそもそもなかった)ため、時間が経ってから納期が無いという事が発覚しました。
そして3日後。
管理部社員:「他の支社に当たったら、3か所分を集めれば、500個あるそうなので、急ぎこちらに送ってもらうようにしました。まとまったらお知らせしますね」
営業:「ありがとうございます!助かります(ああ、良かったー、これでお客さんに迷惑かからなくて済む・・・)」
これで何とか在庫を確保し、発送できるようになりました。めでたしめでたし・・・とはならないのが仕事です。
お客さま:「お世話になってます。この間お願いした A 商品の追加注文なんだけど、アレ、もう届いたから結構です」
営業:「えっ?まだこちらからはお送りしていませんよ」
お客さま:「いや、今日届きましたよ。今、私の目の前にありますし。間違いなく御社からですよ?」
営業:「ええ?ちょ、ちょっと待ってくださいね、、、(どうなってるんだ??)」
お客さま:「とにかくこちらはもう大丈夫なので、請求書だけ送ってください。よろしくお願いします」
あ営業:「え、ええ・・・(一体何が・・・)」
何とかかき集めた 500個分の商品ですが、すでにお客様に納品されているというのは一体どういうことなのでしょうか。
実はこれは冒頭の管理部社員との会話にヒントがあります。
管理部社員「ああ、先週にちょうど500個注文してくださったお客様がいらっしゃって、そちらにすべて納品の手配をかけてしまいました」
この「お客様」ですが、実は同じお客様だったのです。担当者がいない時に追加注文をしていたことが社内できちんと伝わっていないために起きてしまいました。
営業のいう「お客様」と管理部社員のいう「お客様」は同じ企業だったのです。
営業:「部長、先日の件ですが実はちょっと問題がおきまして・・・」
(直属の)部長:「何っ?納品が間に合わなかったのか?それとも在庫が無かったのか?」
営業:「いえ、在庫はあったんですが・・・実は、すでに500個納品されたみたいなんです・・・」
(直属の)部長:「えっ?間に合ったってことか?それは良かったじゃないか。それの何が問題なんだ」
営業:「あ、いえ、違うんです。ご相談した 500個ではなく、別の 500個がお客様のところに・・・」
(直属の)部長:「何だと?一体どういうことだ、それは・・・・!」
あくまでもこれはコミュニケーションにおいて 5W1H を理解するための例文のため、これ以降の会話は割愛させていただきます。
ホウレンソウは「5W1H」を意識して話す
上記は極端な例ではありますが、これに近い会話はあちこちで起きています。
上司への報告や相談、お客様への連絡では必ず「5W1H」にそって話をするようにします。
逆に言えば、「5W1H」のうち、When(いつ)、Where(どこで)、Who(誰が)は外すことなく伝えなくてはいけません。時間と場所、主語を取ってしまうと急にぼやけた話になり、責任の所在も曖昧になってしまうためです。
上記の例でいけば、Who=「部長」、When=「来週まで」から始まり、ミスを報告する際にも部長への報告が時系列で整理されて話されていないため、部長は「間に合ってよかったじゃないか」と勘違いしています。ミスの報告自体にミスが含まれている状態です。
お客様に対しても、社内のコミュニケーションがスムースに進んでいないのが明白です。
※実際には、在庫管理システムなどがあればこういった事態は起きないとは思いますが、コミュニケーション上の行き違いや勘違いはシステムでもどうにもできない部分があります。
まとめ
「5W1H」をしっかり意識して話をするだけで、ミスコミュニケーションはかなり回避できると考えられます。
冒頭でも書きましたが、日本語は省略しても意味が通じる言語体系を持っています。そしてそれはある意味では非常に便利です。
ところが、グローバル化が進むにつれてハイコンテクストなコミュニケーションではなく、ローコンテクストのコミュニケーションが重要になっています。
様々な価値観を持つ人々を相手にビジネスをするために、キッチリ、ハッキリ伝えていかなくてはならないのです。言わなくても分かるだろという会話は、日常生活では OK でも、ビジネスでは致命的です。
それらを回避するために、「いつ、どこで、誰が、どうするのか」を間違いなく伝えることは、発信者の責任だと言えるのではないでしょうか。
そして同時に、上長はこれらの要素が満たされていないホウレンソウは、しっかりと確認する責任があります。
仕事は1つの目的を達成するためにチーム一丸となって取り組む必要があり、その潤滑油として機能するものこそコミュニケーションなのです。これをサボるというのは、必要な油を差さずに機械を動かそうとするのと同義です。
実際、機械なら定期点検やメンテナンス日がありますが、コミュニケーションにはそれがありません。だからこそ、定期点検やメンテナンスの代わりに「5W1H」をしっかり使うことが必要とされるのです。
トライベクトル株式会社 代表取締役。会社経営 19年目。翻訳・ローカライズ業界24年。翻訳・ローカライズ実績年間10,000件以上。
現在は BtoB (特に IT 企業)専門のマーケティングサポート(動画や導入事例などのコンテンツ制作全般)と言語サービス(翻訳、オンライン通訳、英会話、e-learning 講座等)を行っています。