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そのコミュニケーションで失注する

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BtoB の仕事は BtoC に比べて金額も大きく、また仕様も複雑になりがちだ。関わる関係者も多くなる。そこには当然 BtoC とは異なる難しさが存在している。

法人営業としてクライアントと接する際や、また逆の仕事を発注する立場などを経験すると、明らかに仕事をする前の「コミュニケーション」によって、自ら失注率を高めているのでは?と思いたくなるケースがある。

もったいない上に誰も得しないコミュニケーションは、お互いを不幸にする。ではいったいどうすれば失注するコミュニケーションを回避できるのだろうか。

担当者からの問い合わせ

xx ネットワーク株式会社の Aさんは、先日、自社製品のプロジェクト(新事業)の責任者にアサインされた。彼はまだ若かったがこれまでの活躍が社内でも評価され、ある一定の信頼を得ていた。

そのような経緯があったため経営陣は彼に新事業の立ち上げを任せることにした。

xx ネットワーク社としても、A さんとしてもこの手の事業は初めての取り組みのため、まず A さんはしっかり協力してくれるであろうパートナー企業を探すことにした。このパートナー企業の選定によってプロジェクトの成否も変わってくるだろう。

A さんは、早速プロジェクトに関連するキーワードを並べて Web 検索したところ、2社ほど良さそうな企業が見つかった。

すぐに A さんは問い合わせのメールを送った。

ご担当者様

いつもお世話になっております。私  XX ネットワーク株式会社の A と申します。この度、弊社の新事業である「ZZZZZ プロジェクト」にあたり、ご協力いただけるパートナー様を探しているところです。

ご多忙のところ大変申し訳ありませんが、貴社事業について詳しくお聞かせいただけないでしょうか。ご連絡お待ちしております。

どうぞよろしくお願いいたします。

その後、C 社と D 社の二社からすぐに返事をもらうことができた。コロナ禍のため、まずは電話で話をした。

「お問い合わせありがとうございます。C 社の鈴木です。よろしくお願いいたします。早速なのですが、お問い合わせいただいた貴社の新事業についてお聞かせいただけますでしょうか。」

「はい、ありがとうございます。実は弊社でも初めての取り組みになりまして、今回のプロジェクトをお手伝いいただける企業様を探しておりまして・・ただ、初めてで色々分からないこともあるので、その辺も相談に乗っていただけるようなパートナーさんと一緒にできたらと考えております。」

「なるほど、ちなみに納期はいつでしょうか?」

「はい、こちらは3か月後をターゲットにしています。」

「なるほどー、それだとすぐに始めないと間に合わないですね!」

「あ、そうなんですか?3か月あるからまだ多少なりとも余裕あるのかなと思ってたんですけど。。。」

「いえいえ、それまでに準備しないといけないこともありますので、なるべく早くご発注いただいた方がいいですね」

「え?ああ、発注はまだできませんが、急がないといけないのですね。分かりました」

この電話では、Aさんは、テキパキした営業マンだなと感じた。するとタイミングよく、今度は D 社からも電話がかかってきた。

「いつもお世話になっております。D 社の佐藤と申します。この度は弊社にお問い合わせいただきまして誠にありがとうございます。

「いえ、こちらこそ早速ありがとうございます。実は、弊社でも初めての取り組みとなるのですが色々とお手伝いただける企業様を探しておりまして。。。分からないところもあるので色々ご相談できると大変ありがたいのですが。。。」

「なるほどそうなのですね。かしこまりました。そうしましたら、一度詳しいお話をお伺いできればと思いますので、お伺いして詳細をお聞かせいただくか、もしくは ZOOM 等でのご面談のお時間を頂戴できればと思うのですが」

「ありがとうございます。あいにく世の中がこんな状況ですので、御来社いただくのはリスクがありますし、弊社も現状、こちらからの訪問も禁止していますので、 ZOOM でお願いできますでしょうか。」

「かしこまりました。では、別途 ZOOM にてお打ち合わせさせていただけますと幸いです。それでは日程ですが・・・・」

A さんは D 社の営業の電話を切った。こちらも丁寧な感じだったし、安心もできそうだ。ただ、あえて言うなら C 社の営業マンに比べたらスピード感は多少劣るかな・・・という点だけは片隅に置いておこう。

A さんは、後日 D 社の営業マンと打ち合わせをした。その際には、「希望納期」「プロジェクトの仕様」「予算」「プロジェクト立ち上げの経緯や背景」などを聞かれ、できる範囲で(もちろん言えないこともあるが)回答した。

打ち合わせ中、C 社のことをふと思い出し、D 社の営業マンに聞いてみることにした。

「あのー、他社さんは、すぐに発注してもらわないと間に合わないっておっしゃってたんですが・・」

「ああそうですね、確かに3か月と言うのは意外と短いので余裕があるかと言えばそうでもありません。ただ、急がないといけないかどうかは私には分かりかねます。他社さんのお考えもあると思いますので。。。。」

「まあ、そうですよね・・・」

今回は初めてのことばかりで、A さんとしても、それぞれの考え方が違うのかなあという印象を持っている程度だった。いずれにしても、まずは両社から見積をもらうことにした。

しかし、後日プロジェクトの仕様がはっきりしたことで見積書を作ってもらう予定だったが、D 社ではすぐに対応できない箇所があることが分かり、その件について D 社の営業マンから謝罪の連絡があった。

「大変申し訳ありません。お伺いしていた内容だけでしたら問題ないのですが、実はその中にある XXX という工程とそれに付随する作業が、現在の弊社ではすぐに対応ができない状態でございまして、お役に立ちたいのは山々なのですが、ちょっと今回の条件では難しいかと・・・」

「そうなんですか・・・確かにお打ち合わせではこの辺りはきちんとお伝えしていなかったですね。こちらこそ申し訳ありません」

「いえいえ、とんでもありません。私こそ、きちんとお聞きしておくべき個所だったと深く反省しております」

A さんは残念ながら D 社では対応ができない部分があるということで、C 社の営業に連絡をした。念のため、D 社ができないと言っていた XXXXの部分について C 社の見解を聞きたいと思った。

「お電話ありがとうございます!」

「先日はありがとうございました。この間お話しした中で、XXXX の部分を詳しくお伝えしていなかったと思うのですが、貴社ではこの部分の対応は可能でしょうか?」

「はい、大丈夫ですよ」

「あ、そうなんですか。じゃあ安心ですね」

「はい、それよりも A 様、この間もお伝えしたとおり、時間があまり有りませんので、一刻も早く作業を進めさせていただけないでしょうか」

「はい、それは分かるのですが、他にも社内で確認事項がありますのでお待ちいただけますか?」

A さんは、とにかく C 社が急いでいる様子を強く感じた。

翌日。A さんは社内のプロジェクトチームに現状報告をしたところ、メンバーからいくつかの質問が出てきた。指摘された点は、確かに彼らの言うとおり、プロジェクト前にきちんと抑えておかなければならない部分だ。

初めての内容で、自分自身も詰め切れてなかったなと反省しつつ、そうは言っても会社としても失敗はできないプロジェクトなので念のため C 社さんに聞いておいた方がいいだろう。すぐに確認しようと思った。

このあたりは C 社さんはどう考えているのだろう。大丈夫なのだろうか。

「そういえば C 社の営業マンはあまり質問自体がなかったな・・・」と気づいた。

しかし、これは自分たちが分からないだけで、彼らは経験豊富で、元々対応可能だから聞いてこなかった可能性もあり、一概に何とも言えない。

そこで、A さんは、再度気になる点をまとめてメールした。これできちんとした回答をもらえれば、安心だし、自分の取り越し苦労に終わるだけだ。

C株式会社 鈴木さま

XX ネットワーク株式会社の A でございます。先日来、ご相談の件ですが、社内会議を行いましたところ、以下の質問が出てきてしまいました。弊社としてもこの点は重要と考えているため、ご多忙のところ大変申し訳ないのですが、以下についてご教示いただけますでしょうか。

1. 本プロジェクトにおける注意点について

2. 製品機能について

3. 作業の方向性について

上記につきましてご回答をいただけますと幸いです。よろしくお願いいたします。

翌日、C 社からの回答があったのだが、3つの質問に対して 3つの回答があったのではなく、2つまでしか答えを聞くことができなかった。不思議に思った A さんは仕方なく、C 社の営業マンに電話をした。

「お世話になっております。先日メールでお送りした質問の件ですが、ご回答いただきありがとうございました。ただ 2番に対してのお返事が含まれていなかったのですが、これは何か意図があるのでしょうか。」

「いえ、こちらはご不安にならなくても大丈夫なので、お返事していませんでした」

「え?あ、そうなんですか。。。でも私としてはそれを理解しないと進められないですし、また上司に説明をしないといけないので。。」

「失礼しました。そのあたり Aさんはご理解いただけると思いましたので」

「いや、申しわけないのですが、分からないのでお聞きしている訳ですからそれは教えていただかないとさすがに難しいですよ」

「でも、前からお伝えしている通り、納期があるのですぐにスタートしないと本当に間に合わなくなっちゃいますよ?」

「いや、そういう問題ではないですよね?私も最初にお伝えしましたが、弊社としても初めてのプロジェクトなので、御社にとってはお手間かも知れませんが、きちんと確認しておきたいということはお伝えしているハズです」

「・・・・。」

「ですからお忙しいとは思うのですが、お送りさせていただいた質問のご回答をいただけないでしょうか?」

「・・・分かりました。ただ、私どもも今回の貴社のプロジェクトに携わらせていただく上で色々準備もありますし、貴社のためにすでに社内でも多くの時間を割いております。これ以上のやり取りは正直厳しいですし、納期に間に合わなくなってしまうのですが」

「え?どういうことですか?私は貴社にまだ何も作業はお願いしていませんし、発注書もお送りしていません。仕事を進めるために絶対に必要な仕様を決めるのに、確認するのは当たり前の話ですよね?」

「私どもも今世の中がこのような状況ですからデジタルシフトされているお客様からのご相談が多く、私も1社でも多くのお客様のお役に立ちたいと思っているんですが、貴社とのやり取りの時間が増えてしまっていて、これ以上は時間取れないのですよ」

「いや、何をおっしゃってるのでしょうか?弊社としては不明点をきちんと潰してからでないと、仕事をお願いできないですし、それは普通のビジネスでは当たり前ですよね?違いますか?それとも、貴社にとって他社さんは余計な質問もしないし、すぐに進められるから都合がいいということですか?」

「そこまでは言っていません。ただこれ以上のやり取りはもう時間がないのでできませんと申し上げているだけです」

「いや、だから、メールでお送りした3つの質問にすべて回答していただければそれでいいじゃないですか」

「すみません、私ちょっとこれから別のお客様のアポイントがあるので電話切らせていただきます」

「え?どういうこと・・・・」

ガチャ。

電話はそこで切れた。A さんは茫然とした。 ビジネスをしていてこんな風にガチャ切りされたのは初めてだった。自分がいけなかったのか?しかし、仕様が確定しなければ見積だって適切なものではないだろうし、何よりそんなものでは稟議も通らないし上司にも説明できない。このプロジェクトにアサインされた責任がある。

「質問に答えてくれない理由」を聞いただけなのに、なぜか逆ギレされて電話を切られた。まったく意味が分からない・・・

失注するコミュニケーション

上記の例は分かりやすくするため多少の脚色はあるが本当に起きた話だ。ビジネスの世界で、というより社会人としてガチャ切りされるようなことは、基本的に起きない。そんな稚拙なやりとりは通常発生しないだろう。

EC サイトのようにネット上で注文まですべて完結できるのであれば、営業マンとのやり取りは不毛だが、今回はそうではない。A さんは「初めてのプロジェクトに取り組むことなので色々相談しながら」と言っており、C 社も D 社も、Aさんや xx ネットワーク社にはこの分野についてあまり多くの知識を持ち合わせていないということは事前に分かっていたはずだ。

だからこそ、D 社の営業マンは丁寧にヒアリングをし説明をしていった。確かに途中、対応できない工程があったのは残念だが、A さんと一緒に考えてくれて誠実に話をしていた。

一方、C 社の営業マンは「とにかく早く発注してください」の一点張り。細かい話はしない。本当にこんな営業マンに当たったら怖くて発注なんてできないのは明白だろう。

まさにこれが「失注するコミュニケーション」だ。

  • クライアントの質問にきちんと答えない(プロジェクトに関しての疑問点を聞いても回答してくれない)
  • 都合が悪くなると話をすり替える(納期の話ばかりをする)
  • しっかり確認をせずに「大丈夫」しか言わない
  • クライアントへのヒアリングが甘い(仕様をきちんと確認していない)
  • 最終的にクライアントの無知のせいにして逆ギレ

このようなことをすれば、発注前から容易にトラブルが起きることが想像できるはずだ。

あなたの命を預けるに値するのか

別の例で考えてみよう。もし今回のようなコミュニケーションを医療に置き換えてみたらどうだろうか。あなたは数日前から体調が悪いとする。医療の知識もない。この先どうなるのか、どうすればいいのか分からない。しかし日に日に痛みだけはひどくなってくる。

そんな状況で病院に行ったとする。その際の医者から「これは手術ですね、しかもすぐにやったほうがいいので、今からやりましょう」とだけ言われたらどう思うだろうか?

  • いったい何が起きているのか
  • なぜ手術するのか
  • 何の病気なのか
  • 本当に手術は最善なのか

などなど、疑問だらけのはずだ。家族にも相談しなければならない。会社にも連絡しないといけない。万が一のことも考えないといけない。。。

そんな色々な不安が一気に押し寄せてくるのに、医者は「3時間後には開始したいと思いますのでこの書類にサインを」と言ってくる。

あなたはパニックになるだろう。

それでもあなたはこの医者の言う通り、手術をしようと思うだろうか?

あなたはあなたの命をこの医者に預けようという気になるだろうか。

なぜこんなことが起きるのか

実際、なぜこういったことが起きるのだろうか。恐らく C 社の営業マンはどこかでクライアントを「下に見ている」可能性がある。

「分からないところを手伝ってやってるんだから、黙ってオレたちのいうことを聞いていればいいんだ」

という心理が(無意識であったとしても)働いているからこそ、誠実に回答しないし、「分かったから早く発注してくれ」というトークになるのだろう。

確かに C 社や、上記の医者も専門家でありプロフェッショナルなのかもしれない。実績や手術件数も多く、任せたらきちんとしたものを仕上げてくれるのかもしれない。

しかし、今回のクライアントや患者は初心者だ。その初心者も安心してお願いできる(お願いしたい)ように説明を加えないのは、単純にクライアントをバカにしているだけだろう。

「説明をしなくてもできるから大丈夫」という態度があからさまに出てしまっているため、クライアントは本筋よりもそっちに引っかかってしまうし、残念ながら C 社の営業マンはそれ自体に気付いていない。「なぜ早く発注してくれないのか?」と本気で思っている可能性すらあるのだ。

ちなみに、このケースではないが別の事例では「そんなことも分からないのですか」といった発言や、クライアントを小バカにするような対応をする会社もある。チャットツールのやり取りの最中に、クライアントのコメントに「Bad」ボタンを押してしまうようなケースだ。もちろんこれも実話だ。

こんなことは通常ありえない。

「分からないからやってあげてるのだ」という態度がそのまま出てしまっている。そしてクライアントは敏感にそれを察知する。

A さんのケースでは、初めから正直に、出来ないからお願いしている、分からないからその道の専門家に聞いているのだが、なぜか C 社の営業マンはそれを曲解して「だったら俺の言うことを黙って聞いていればいいのだ」という不遜な態度にすり替わってしまっている。

特に、BtoB ビジネスにおいては、プロジェクト関係者も多く社内における A さんの立場もある。細かい仕様まできちんと確認するのは当たり前の話であり、それをいちいち面倒臭がっていては、仕事にならない。

また医者の例でも「インフォームド・コンセント」という発想がない医療は誰も安心できないだろう。

ちょっとした手間、補足説明を省いてしまうとこのようにクライアント側の不安が増大する。結局これでは双方にとって時間の無駄だし、何一つメリットがない。

こういったコミュニケーションで悪評を広めるくらいなら、初めから D 社のように断った方がマシだろう。

まとめ

ここまで極端な事例はあまりお目にかからないはずだが、本当にそのお客様の役に立ちたいと思っているのかは、営業マンのスタンスで分かる。なぜなら営業マンはその会社の看板を背負っているからだ。

  • 他のクライアントの仕事があると言いながら、結局自分視点でしか話さない
  • 他のクライアントにも同様に接し方をしているのは明白
  • 最初は調子はいいが行動が伴わない

これではいけない。まだプロジェクトが始まってもいないのに「頼みたくない」と思われてしまうのは愚の骨頂でしかないし、印象も最悪だ。

大切なのは、上からモノを言うことでもなく、変に下手に出ることでもなく相手の立場を想像して対応していくことだ。

  • プロフェッショナルとしての高いパートナー意識
  • クライアントが目指している方向を向く(クライアントの実現したいことを理解する)
  • クライアントの課題を一緒に解決していく気持ちで対応する

簡単にいえば「困っている/悩んでいるお客様に対して自分たちがもっている技術でお役に立つ」ということだ。

どんな業界でもおそらく似たようなコミュニケーションが起きているはずだが、それによって失うビジネスチャンスはどのくらいあるのか、自社の営業マンがこんな回答をしていないか、あらためて考えてみてもいいだろう。

かなり無駄なコミュニケーションコストを払っている可能性がある。逆に言えば、こういった部分をしっかり整備できる企業は「対応品質」が高い。

該当のプロジェクトに対し確かな実績がある会社なら、高すぎたり、安すぎたりということはあり得ない。適正な価格と適正なスケジュールの中で、どのようにクライアントのプロジェクトを進めるのかを真剣に考えるはずだからだ。

そのためにはどんなプロセスが必要で、どんなリソースをアサインすればいいのか、どんな項目をクライアントにヒアリングすればいいのか、どういう体制ならそれらをすべて満たせるのかといった要素がすでに言語化されているはず。

だからこそ、クライアントも安心して発注することができるし、実はそこには大きなビジネスチャンスが潜んでいることも合わせて伝えておく。